日光金谷ホテルのブログレビュー:日本クラシックホテルの会宿泊記シリーズ
先日、「日本クラシックホテルの会」に関する紹介記事を投稿したところ、少なからず反響をいただきました。筆者としても、まだまだ詳しくお伝えしたいことなどがありました。そこで、「日本クラシックホテルの会宿泊記シリーズ」として9つのホテルひとつひとつについて、それぞれが持つユニークな魅力や、実際に宿泊した時のエピソードなどをご紹介していきたいと思います。
この記事を読み始めて、日本クラシックホテルとは何ぞや?と思われる方は、ぜひ過去の記事『日本クラシックホテルの会とは?パスポートで無料宿泊ゲット!』をまずはお読みになって下さい。
どの順番でご紹介していこうかと思いましたが、創業の古いホテルから順番にご紹介していきたいと思います。トップバッターの今回は、栃木県日光市にある「日光金谷ホテル」をご紹介致します。
日光金谷ホテルの概要
創業は1873年(明治6年)で、現存する日本最古のクラシックリゾートホテルです。1893年(明治26年)築の本館、1901年(明治34年)築の新館、1935年(昭和10年)築の別館、1961年(昭和36年)築の第二新館の4つの建物から構成されています。総客室数は70室と小規模ホテルのカテゴリーとなります。
最近のホットなニュース
今年(2023年)は創業150周年を迎え、1935年(昭和10年)に建築された別館のリニューアル工事を行い、別館ROYAL HOUSEとして2023年7月15日に完成しました。
この別館は、かつては昭和天皇やヘレン・ケラーなどが宿泊したことがある由緒正しき建物。今回のリニューアル工事で71.6㎡のスイートルームも2部屋完成しています。1泊10~20万円はしますが、まだ認知度が低いからか、空室の日程もあるようです。
スイートルームといえば、日光金谷ホテルには62㎡の「オレンジスイート」という放送作家小山薫堂監修のホテル・イン・ホテルが第二新館にあり、2008年9月6日にリニューアルスタートしています。エネルギーを充電する「ビタミンスイート」をコンセプトに「元気がもらえるホテル」として人気を博してきました。
都会の喧噪を離れ、澄んだ空気と充実したアメニティ、おもてなしの心をぎゅっと詰めた一室として、気分をリフレッシュさせるさせる心地よい部屋づくりを目指しています。一休.comからのみの予約受付で、夕朝食付き2名一室7~8万円台という比較的リーズナブルな宿泊料設定も好評の一因のようです。
日光金谷ホテルにはもう一室のホテル・イン・ホテル37㎡が新館にあり、小山薫堂プロデュースの第一弾のお部屋として2003年からスタートしています。こちらはホテルの公式サイトからでも予約可能ですが、やはり夕朝食付きのみで2名一室の宿泊料は定価88,000円です。
ホテルのコンセプト
日光金谷ホテルには明確なホテルコンセプトと呼ばれるものはないようですが、公式サイトにはキャッチコピーがあり、それがホテルコンセプトと言えるかと思います。
「MARKING TIME, TYING HAPPINESS. 時を刻み、幸を編む。おもてなしの原点がここにあります。」
「伝統と格式。150年の歴史が紡ぐ物語。
創業明治6年。ここは、アインシュタインやリンドバーグも訪れた日本最古のクラシックホテル。」
やはり、現存する日本で最も古いホテルだからこそ提供できる伝統と格式が日光金谷ホテルのホテルコンセプトだと考えられます。
アクセス
鉄道利用でのアクセス
東京方面から日光へは、新宿・池袋からのJR乗り入れ、もしくは浅草からの東武日光線、宇都宮からのJR日光線の3つの鉄道が通じています。東武日光駅からはホテルの無料シャトルバスがあります。
ただし、1日に3便しかないため、時間が合わない場合は東武・JRの日光駅前から東武バスが運営する路線バスも利用できます。特に紅葉シーズンの10月~11月は無料シャトルバスも1日1便しかなく、到着時刻も未定となっているので注意が必要です。
自動車利用でのアクセス
自動車の場合、東北自動車道の宇都宮インターから接続する日光宇都宮道路に入り、日光インターで降ります。日光インターからは7~8分程度です。日光金谷ホテルには60台分の無料駐車場があり、予約は不要です。
ホテルの沿革
日光金谷ホテルのルーツは、1873年(明治3年)に遡ります。ヘボン式ローマ字を考案したアメリカ人宣教医ジェームス・カーティス・ヘップバーン(ヘボン博士)が、欧米人の避暑地として人気が出る前の日光を訪れました。その際、代々日光東照宮の雅楽師(日光楽人)であった金谷家の第9代目当主金谷善一郎が、武家屋敷の自宅を宿として提供しました。
金谷家に泊まり金谷善一郎や家族のもてなしに感銘を受けたヘボン博士は、金谷善一郎に将来を見据えて海外からのお客さん専用の宿泊施設の設立を勧めました。
金谷カテッジイン
明治維新により江戸幕府という後ろ楯を失った東照宮は、経済状況も満ち足りたものではなく、日光楽人の給与も減給しました。家計のやりくりに苦労していた金谷善一郎はヘボン博士の進言を受け、1873年(明治6年)に自宅を改造して後の日光金谷ホテルの前身となる民宿を開始し、「金谷カテッジイン」と名付けました。
当時、既に築200年以上は経っていた金谷カテッジインの建物は、江戸時代には武士が住んでいた武家屋敷のため、刀を振りかざせないようわざと天井を低くしたり、隠れ扉や通路が複数箇所あり、外国人客からは「サムライハウス」と呼ばれていました。
この金谷カテッジインは国の登録有形文化財にもなり、現在は「金谷ホテル歴史館(侍屋敷)」として一般公開されています。入館料は大人550円、子供(小学生)275円ですが、日光金谷ホテル宿泊者は10%割引券がいただけます。日光金谷ホテルからは車で3分くらいです。
ヘボン博士
金谷善一郎に外国人客向けの宿泊施設の開業を進言したヘボン博士は、宣教医として1859年10月に来日し、以来18年間、横浜に住みながら、医師、宣教師、教育者として日本のために尽くしました。1860年頃、ヘボン博士の妻クララが私塾を開き、1862年末には横浜居留地にヘボン博士自らが設計した宣教師館が完成、住居として移り住むと共に、翌年にはヘボン塾も開かれました。これが後の明治学院やフェリス女学院のルーツとなります。ちなみに現在でもパスポート表記などに使われるヘボン式ローマ字は、1867年(安政5年)に考案されています。
イザベラ・バード女史
ヘボン博士の紹介で金谷カテッジインに逗留(12泊)した英国人旅行家イザベラ・ルーシー・バードは、著書「日本奥地紀行」の中で日光と金谷カテッジインについては大絶賛しています。たいそう気に入ったのか、金谷カテッジインのスケッチも残しています。この本がきっかけとなり、日光や金谷カテッジインの名前が世界に広がりました。
ヘボン博士やイザベラ・バード女史をはじめ、ホテルについてのエピソードは、日光金谷ホテルの敷地内にある入館料無料の「金谷ホテルギャラリー」でも紹介されています。
金谷ホテルの設立
金谷カテッジインの創業から約20年が経ち、1893年(明治26年)に、後に30室の客室を備える「金谷ホテル」を大谷川岸の高台にオープンさせます。ここが現在、日光金谷ホテルが建っている場所となります。
そこには、建築期間中の暴風雨により、崩壊したまま放棄されていた「三角(みかど)ホテル」がありました。金谷善一郎は、その土地と建物を買収し、当初は1階に1部屋、2階に1部屋しかできていない状態でオープンさせました。その後、少しずつ完成形に持っていき、最終的に30室の本館を完成させます。
増改築
その後、1901年(明治34年)に新館、1935年(昭和10年)に別館、1961年(昭和36年)に第二新館を増築させ、現在は4つの建物から構成されています。特に別館は万平ホテルを手がけた久米権九郎氏が設計しました。別館の落成に引き続き、これまで2階建てだった本館の地面を掘り下げて3階建化への増築が行われました。つまり現在の2階が当時の1階でした。当時の写真からもその様子が伺えます。
現在の日光金谷ホテル
大谷石
また、3階化への改築の際、玄関の柱には大谷石(おおやいし)が使われました。栃木県宇都宮市の大谷石採掘場から近いからか、館内にも大谷石がふんだんに使われています。大谷石は近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトが設計した帝国ホテル2代目本館(ライト館)建築で使われました。1923年(大正12年)に完成したライト館後の彼の設計作品、東京・目白の自由学園明日館や兵庫・芦屋の旧山邑邸(ヨドコウ迎賓館)などにもその温かみのある風合いと彫刻のしやすい柔らかさとしなやかさから好んで使われたそうです。
本館出入口
本館の出入口にある回転ドアは、2階建当時から使用されていた形跡があり、3階化への増築工事の時に付け替えられたようです。
フロントとロビー
フロントの背面にセピア色の写真(ヘボン博士・金谷善一郎・イザベラ女史)が掲げられており、クラシックホテルらしさを醸し出しています。
フロントの奥には赤い絨毯のロビーがあり、古い柱時計や外の庭園を見ながらリラックスできます。
客室の中の様子
部屋のタイプによって仕様も違っていますが、本館3階の「スタンダードC(シャワー付タイプ)」(21~27㎡)と呼ばれる部屋を中心にご紹介します。一部「スタンダードA」(29~38㎡)と呼ばれる部屋と比較します。
ベッドルームエリア
スタンダードCタイプのベッドはごく一般的ですが、タンスと鏡台を合体させた家具や、ライティングデスクがクラシックな感じがします。
一方、スタンダードAの部屋は、ベッドカバーからしてクラシックな感じです。ルームランプカバーも明治時代からデザインは変えていないのではないかと思われます。
バスルームエリア
スタンダードC(シャワー付タイプ)は文字通りシャワーのみです。シャワー圧も全く問題ありません。
スタンダードAはバスタブもあります。アメニティはどちらのお部屋タイプでも同一で「VEDA ROSSO(ヴェーダロッソ)」のBOTANICALシリーズです。植物由来の成分を中心に作られ、ノンシリコンで髪や頭皮に優しく、さわやかなオレンジハーブの香りが特徴です。スキンケアキットも付いているので、特に女性の皆さんにとってはうれしいですね。
客室の備品
冷蔵庫や電気ポット、ホテルオリジナルの150周年記念ボトルの水も備えられています。ドライヤーと浴衣はタンスの引き出しの中にあります。
ホテルの食事
メインダイニング
食事は2階のメインダイニングでいただきます。メインダイニングの入口近くにある階段の炎の装飾がされたランプは明治時代から使われているそうです。入口の柱やメインダイニングの柱にも見事な柱頭彫刻が施されています。また、天井にも装飾された板が使われています。さらに、暖炉の上にある「迦陵頻伽(かりょうびんが)」と呼ばれる彫刻が目を引きます。迦陵頻伽は上半身が美しい女性で、下半身が鳥の姿をしているという想像上の生き物で、極楽浄土で妙なる声でなくといわれています。また、暖炉も大谷石で作られていますが、そのデザインはフランク・ロイド・ライトではないかとの説もあるようです。
夕食
メインダイニングでは、歴代の料理長から受け継がれてきた金谷ホテル伝統のフランス料理をいただくことができます。ライトディナーのご紹介をします。アミューズ、本日のオードブル、季節のポタージュに続き、メイン料理は魚料理、鶏肉料理、牛ロース肉料理、牛フィレ料理の4種類の中から選択します。牛肉料理の2種類は追加料金が必要となります。季節のポタージュもコンソメスープに変更できますが、追加料金が必要です。メイン料理の後は、本日のデザート、コーヒー又は紅茶が出てきます。パンは最初から提供されます。
筆者がいただいたライトディナーを、スタートから写真でご紹介します。
メイン料理は、『白胡麻を纏った「寒鰆(かんざわら)」のポワレとキャベツのエチュベソース・マリニエール 酸味をきかせたビーツのピューレをアクセントに』と『岩手県産「みちのく清流どり」のコックオーヴァン 熟成ジャガイモのピューレと彩り野菜のローストを添えて』を選択しました。
メイン料理のあとはイチゴを中心にしたデザートとコーヒーをいただきました。
今回のライトディナーは、日光金谷ホテルの歴史が感じられるメインダイニングで、脈々と受け継がれてきた伝統のフランス料理を、明治時代に思いを馳せながらいただきました。そもそもフランス料理を食べ慣れているわけでもなく、メニューの言葉の意味もほとんど理解できませんでしたが、ソースが非常に繊細で美味しい!と感じました。
気になるお値段の方ですが、筆者がいただいたものは宿泊とのセットになっていましたが、食事だけの場合は公式サイトでは8,500円~/人(税・サ込)となっています。
朝食
朝食はダイニングルームの奥にある新食堂でいただきます。洋食と和食があり、和食は605円の追加料金が必要です。筆者は和食を、妻は洋食を注文しました。洋食の卵料理はプレーンオムレツ、フライドエッグ(目玉焼き)、スクランブルエッグから選択できます。朝食は宿泊者でなくてもいただくことができます。4,000円/人の朝食と、卵料理のないコンチネンタルブレックファストは3,420円/人で提供されます。公式サイトには和朝食のメニューが載っていませんでしたから、和朝食だけは宿泊者限定かもしれません。
ホテル館内ツアー
夕方17時からホテル主催の40分程度の館内ツアーがあります。宿泊者限定で、事前予約が必要ですが、このツアーへの参加は強くお勧めいたします。案内役は複数おられるようですが、150年の歴史を持つ日光金谷ホテルだからこそ語ることのできる、数々のエピソードなどを伺うことができます。
ホテル館内には日光東照宮由来の彫刻類がいくつかります。東照宮の「上神庫」に東照宮をお守りする象が描かれています。これを描いた狩野探幽(かのうたんゆう)は象を一度も見たことがなく、想像して描いたことから「想像の象」と呼ばれています。それを立体的な彫刻にした作品が、日光金谷ホテル館内の複数箇所で見られます。また、東照宮の東回廊にある国宝「眠り猫と牡丹の花」も平和の象徴とされ、日光金谷ホテルの館内でも複数箇所で見ることができます。さらに、小食堂と呼ばれる部屋には、花鳥風月を描いた挌天井があり、柱にも見事な柱頭彫刻が施されています。
宿泊費実績
最後に筆者が実際に宿泊した時の予約サイト、プラン、価格などをシェアします。旅行支援などを活用しましたので、かなり抑えられたと思いますが、参考にしていただければ幸いです。
2020年8月
「GO TO TRAVEL」という旅行支援制度を活用しました。この制度は、コロナ禍で大打撃を受けた旅行業界を救済しようという目的で、各種要件を満たせば宿泊費の35%が割引され、15%分の地域クーポンがいただける政府主導の需要喚起策でした。
JTBオンラインからツインルーム26平米の素泊まりを予約しました。基本料金は27,830円で、ここから現地でGO TO TRAVELの35%割引が適用され、18,090円となりました。
2022年12月
ホテルの公式サイトから予約し、全国旅行支援を利用しました。スタンダードツインC(シャワーのみ)のお部屋で「日光お手軽旅~メイン料理1品のライトディナーコース(夕朝食付)」というプランを選択しました。基本料金は30,250円ですが、ホテルの公式サイトで会員登録をしてから予約をすると、その時点で16%の割引が適用され、25,410円になりました。
現地決済でなければ全国旅行支援割引は適用されないので、チェックイン時に必要書類を提示し、40%割引ですが上限割引額の5,000円/人の適用と地域クーポン券6,000円分をいただきました。食事の際のドリンクなどは地域クーポン券2,000円分でお支払いし、最終的に16,315円を決済しました。ライトディナー代だけで宿泊と朝食もいただいたような感じです。さらに4,000円分のクーポン券が残っていました。
チェックアウト時
チェックアウト時に、前日夜から預けていた日本クラシックホテルパスポート2冊を受け取りました。間違いなくスタンプは押されていました。
まとめ
日光金谷ホテルは、日本最古のクラシックリゾートホテルというだけあって、この記事を書いているだけでも新しい発見や新しい疑問が湧いてきました。それらを深堀りしていくと奥が深く、際限がなくなりそうでした。やはり、日本クラシックホテルの原点だと言っても過言ではないと思います。
宿泊費も比較的リーズナブルなものがあったり、皇室や国賓が利用するようなスイートルームも手が届きそうな範囲で提供されているので、多種多様な楽しみ方ができると思います。今年は創業150周年記念プランや記念メニューなどがありますので、宿泊するには良い機会だと思います。
宿泊予約に関しては、まずはホテル公式サイトで会員登録をし、会員として宿泊予約をして会員割引を適用させると、お得な宿泊料金になります。
https://www.kanayahotel.co.jp/nkh/
是非とも日本クラシックホテル巡りの開始ホテルに選んでいただければと思います。その際にはイザベラ・バード女史の「日本奥地紀行」の金谷カテッジインの部分も読んで「金谷ホテル歴史館」にも訪問して下さい。東照宮や華厳の滝の記述もありますので、明治時代のノスタルジーに浸りながら訪問していただくと、より一層楽しめることができるでしょう。